現在、都市伝説や怪談など、第3次オカルトブームが到来しつつある。
6月頃から始まった「予言」騒動は、その証拠となりうるだろう。
最近、大きな話題となった予言のように結局は何も起こらず、今も日常は淡々と進んでいる。
と、書きつつも僕はオカルト好きなので、この本のタイトルが気になり手にとってしまったのだ。
それが「呪いを、科学する」である。

書名:呪いを、科学する
著者:中川朝子
出版社:株式会社ディスカバー・トゥウエンティワン
本書が面白いのは、現役医大生である(2022年当時)中川朝子氏が、主に医学的知識に基づいて解明していく点だ。
誰もが知っている「呪い」や不思議な現象を医学的な知識を通して見ると「あ、確かにそうだ!」というアハ体験ができる。
例えば、呪いと聞いて僕は「ブードゥーの呪い」を思い出す。
はじめてブードゥーのことを知ったのは、確か水木しげる氏の漫画だった気がするのだが、その中でブードゥーは呪いの儀式を行うことが書かれていた。
そのため、僕の頭の中では「呪い=ブードゥー」の図式が埋め込まれている。
本書の第1章では、その「ブードゥーの呪い」が医学的知識から解説されている。
詳しくは書かないが、その呪いの正体に「ストレス」が関わっていることが丁寧に解説されており、僕自身「なるほど、そうか!」と腑に落ちて感心させられた。
水木しげる氏つながりで言えば、同じく第1章の中で日本や西洋の妖怪についても言及されている。
日本の妖怪として代表的な「鬼」や「河童」の正体に関する考察には驚かされた。
法医学の観点から、これらの妖怪を考察するとまさに「幽霊の正体見たり枯れ尾花」の言葉どおりの答えが見つかってしまう。
ここまで、しっかりとした考察をされると、妖怪もお手上げだったことだろう。
冒頭で語らせてもらった「予言」についても言及がある。
本書第3章の最初に出てくるのが、「ノストラダムスの予言」だ。
1999年に世界が滅亡することを予言し、当時は子どもから大人まで話題にするほど社会現象になった。
筆者は、その一大狂騒曲を巻き起こしたノストラダムスの予言も、心理学の知識を活かすことで解き明かしている。
この明快な考察を当時の人々に読んでもらえていれば、きっと人生の選択を謝らずに済んだかもしれないと一人でニヤリと笑ってしまった。
筆者は決して、この本によってオカルトを否定しようというわけではない。
なぜなら、筆者自身が呪いや魔法に興味があり、魔女が出てくるファンタジーが大好きだからだ。
そんな筆者が、ファンタジーの世界である「呪い」を「現実世界」の知識で解き明かそうとした試みの面白さ。
さらに、その試みの正確さに、きっと引き込まれるに違いない。
オカルトを信じ込んでしまい、現実が見えなくなってしまうよりは、オカルトをエンタメとしてとらえ、現実との関わりの中で解き明かそうという楽しさが、本書にはあふれていた。
もし、あなたがオカルトに興味があったり、逆にオカルトではなく科学的な知識に興味があるのなら、本書はその両方を満足させてくれるに違いない。
「呪い」の後ろにある現実は何かを知りたいという、知的好奇心を満たしてくれる。
科学(Science)の知識で、架空に見える世界(Fiction)の成り立ちを解き明かす本書は、まさに最高の知的エンターテインメントであり、優れたSF(サイエンス・フィクション)作品と言えるだろう。