エッセイ

甘い飲み物、いかがです?

基本的に、僕は甘い飲み物を飲むことはない。
自動販売機でも炭酸水かお茶くらいしか買わないし、喫茶店に入ってももっぱらコーヒーや紅茶を注文する。
もちろん、砂糖は入れない。
ただし、ミルクやフレッシュは入れる。
ちょっとしたお子ちゃま舌だ。

これは、小学校高学年くらいから変わっていない。
それ以前は、コーヒー牛乳が大好きで、スイミングスクールの帰りに母親にねだっていたのを覚えている。

しかし、小学校高学年になると僕が好むようになったのは烏龍茶だった。
何がきっかけになったのかわからないのだが、あの香りや渋みがたまらなく好きだった。
もしかすると、漢字が好きだったのかも知れない。
そう、「龍」の字がかっこよかったから。

さて、甘い飲み物と聞いて何を思い浮かべるだろうか?
オレンジジュースやコーラ、サイダーなどなど、人それぞれだろう。
ちなみに僕がパッと思い浮かんだのは、「紅茶」だ。
その中でも「レモンティー」が真っ先に脳裏に浮かぶ。

それもそのはず、沖縄では「アイスティー」や「レモンティー」をよく見かけるからだ。
「なーんだ、レモンティーなんて全国で売られているじゃないか」
と思う人もいるだろう。
いやいや、沖縄を侮るなかれ。
沖縄では販売されているレモンティーの種類が多いのだ。

例えば、紅茶飲料で有名な「紅茶花伝」シリーズ。
なんと沖縄限定で「ガーデンレモンティー」を販売している。
さらに、沖縄で愛されている食堂が監修したレモンティーやアイスティーも販売されているのだ。
どれほど沖縄でレモンティーが愛されているのか、これでわかってもらえるのではないだろうか。

沖縄では部活帰りの学生がレモンティーを飲みながら、談笑して帰宅する姿を見かけるのは珍しい光景ではない。
疲れた体には、レモンティーのあの甘さがしみわたるのだろう。

ところが、僕はこの甘いレモンティーが苦手だ。
どうしても、あの甘ったるい味が苦手で仕方ない。
だから、僕はレモンティーを飲んだことが数えるほどしかないのだ。
なぜ飲んだのか、と問われれば至極簡単。
友人の家に遊びに行ったときに出されたからだ。
招待されて出された飲み物を飲まないのも悪いし、その頃は「飲めないんです」と断るような勇気もなかった。
それだけ幼く、気弱な頃の出来事だ。

最近、ふと思う。
レモンティーが飲めない僕は、沖縄県民と胸を張って言えるのだろうか?
いや、言えないだろう。
部活帰りの学生たちが、当たり前のようにレモンティーを飲む姿を見るたび、僕は彼らの共有する“甘い時間”から、少しだけ疎外されているような気がしていたのだ。
そのような結論に僕は思い至った。

だから、レモンティーを買って飲んでみることにした。
ペットボトルの蓋を開ける。
一口、グッと飲んでみる。
口に含んだ瞬間に広がる砂糖のベタベタとした甘さと、やや人工的に感じるレモンの香りが洪水のように押し寄せた。
それは、僕が苦手だった子供時代の記憶、そのものの味だった。
友人の手前「おいしい」と嘘をつきながら、必死で飲み込んだあの日の味だ。
僕は大人になっても、この甘さと和解することができそうにない。
僕はこのペットボトルを飲み干すのに、あと1年はかかるのではないだろうか。
そんな風に思い、苦笑いを浮かべながら蓋をギュッと閉めた。

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